(写真:チームカラーはサックスブルー。これは石山監督の原点・日体大ライフセービング部がモチーフ)

 十文字高校女子サッカー部は2016年度の全日本高校女子サッカー選手権を初制覇し、いまや強豪校のひとつに数えられている。22年前に同好会としてスタートした当初、部員は1チーム分にも充たない9人の未経験者しかいなかった。それが今年度は70人を超え、全国屈指の部員数を誇るまでになった。十文字高の指揮を執るのは、中学生チームからトップチームまでに及ぶ十文字フットボールクラブの総監督・石山隆之氏だ。

 

 1996年にスタートしたクラブの歩みは、創設者である石山監督抜きには語れない。パイオニア精神と情熱で、道なき道を切り拓いてきた。中学、高校で選手経験はあるものの、目立った実績はない。日本体育大学ではライフセービング部の1期生で、日本代表にもなった。異色の経歴を持つサッカー指導者である。

 

――十文字高校を率いて、今年で23年目になります。学生スポーツですから当然、選手の入れ替わりが常にある中で監督自身の指導哲学は?

石山隆之: 高校に関しては3年生を大切にすることを心がけていますね。やはり部活動ですから、人生においての通過点。おっしゃるように選手も入れ替わっていきます。私が変わらずここにいるとしても、高校3年生にとっては最後の1年です。その部分は大切にして、寄り添いながらも時には厳しく接していきたいなと思っています。

 

石山隆之(いしやま・たかゆき)プロフィール> 1965年、東京生まれ。都立小岩高−日本体育大学。日体大在学時はライフセービング部の第1期生となり、日本代表にも選出される。卒業後は教員として勤務。十文字高校では96年にサッカー同好会を発足し、監督として現在の十文字フットボールクラブの礎を築く。2016年度の全日本高校女子サッカー選手権大会で同高を初優勝に導いた。これまで多くの日本代表選手を輩出し、17年にはジャパンコーチズアワードで優秀コーチ賞を受賞した。

――ご自身の著書『強く、しなやかに女性を育てる』では専制型の指導者として周りが見えていなかった時期があったとおっしゃって<いました。その点は歳月を経て変わってきましたか?

石山: そうですね。一番大切なのは今も変わらず情熱だと思うんですよ。ただ情熱一本鎗でやっていた時期もあり、全国大会で上位には行くけれど優勝できなかった。そういった経験を積み重ねていく中で、死ぬほど考えたり、泣いたりして今の自分が出来上がった。若い頃は“自分の手柄にしたい”“目立ちたい”という思いが強かった。今もモチベーションとして、そういう思いが全くないわけではないです。でも、それが最終ゴールではありません。

 

――元なでしこジャパン(女子サッカー日本代表)の監督で、現在十文字学園女子大学の佐々木則夫副学長は、指導者として「距離感を大切にする」とおっしゃっていました。

石山: 私はもう距離があり過ぎなくらいです。あまりベタベタと指導するのは自分に合わない。今はコーチ陣を選手との間に入れています。特にキャプテンとの距離感は大切にしている。“キャプテンがチームを変える”との考えがあります。その土壌はこちらがつくるけど、キャプテンが私ばかりを見過ぎてもダメになりますから。

 

 可能性に限界をつくらない

 

(写真:書き溜めた”ネタ帳”はサッカーに限らず、キャッチーな言葉などをメモしている)

――監督はコーチであり、モチベーターでもある。選手を鼓舞する上で、キャッチーな言葉を用いる工夫も?

石山: そこはやはり常にアンテナを張っていますね。本はよく読みますし、映画も観ます。違う分野の人にもすごく興味があり、取り入れるようにしています。

 

――キャッチーな言葉の方が選手に響きやすい?

石山: 絶対そうです。キャッチー=理念じゃないですか。原理原則。だから何かあった時に立ち返れる。ミスした時、ピンチの時、どんな時でも結びつけることができると思いますね。

 

――十文字高のOGにはなでしこジャパンのエース横山久美選手(現AC長野パルセイロ・レディース)がいます。

石山: 彼女はセンスがあり、人一倍努力家でもありました。まさか日本代表のエースに成長するとは思いませんでしたけど……。

 

(写真:身振り手振りで選手たちに説明する。気の抜けたプレーは許さない)

――高校時代は突出した選手じゃなかった?

石山: すごく頼りになりましたね。勝負強く、彼女に救われた試合は何度もある。1対3の場面でも仕掛けていましたし、私も「勝負しろ」と言いました。1対3でもシュートを決められなければ怒られる。それほどの存在でした。ただ僕が日本代表で主軸になるようなレベルの選手を輩出したことがなかった。だけど身近にいるんだなぁと思いました。だから今の子どもたちにも言い続けています。“自分で自分に可能性に限界の線を引いてはダメ”だと。

 

――今年度のチームはいかがでしょう?

石山: 1年生に面白い選手が揃っています。今年はキャプテンシーのある3年生が主将なので、ちょっと楽しみですね。ディフェンスの中心に良いキャプテンがいて、生き生きとした1、2年生がチャレンジできるようなイメージです。

 

 キャプテンがチームを変える

 

(写真:キャプテン、ディフェンスリーダーとしてチームを統率する井上)

 今年度のキャプテンに選ばれたのがセンターバックの井上萌(3年)だ。石山監督が「熱さを表に出し、分かりやすく伝えることのできる選手」と評するリーダーである。1年時には全国制覇をレギュラーとして経験。過去最多の部員をまとめる大役を担っている。

 

――今年のチームカラーは?

井上萌: 私たち3年生は1年生の頃に高校選手権での優勝を経験しました。その優勝で見ることができた景色を後輩たちにも経験してもらい、その遺伝子を残していきたい。部員数は過去最多となり、やはり人数も多いので小さなミスも起こりやすい。正直難しいことは多く、改善も必要です。でもその分、まだまだ成長できるのびしろがあると思っています。

 

――今年度からキャプテンを任されています。小・中学での経験は?

井上: 小学1年からサッカーを始めましたが、キャプテンはこれまで全くありませんでした。

 

――石山監督は「キャプテンシーがある」と評価していますが、ご自身の中では?

井上: 私が思っているキャプテンは才能と実力を持ったリーダーシップのある選手だと思っています。私は才能や身体能力も優れているわけではありませんので、努力で補ってチームを引っ張っていきたい。

 

井上萌(いのうえ・もえ)プロフィール> 2000年8月12日、埼玉県生まれ。小学1年でサッカーを始める。中学時代は浦和レッズレディースジュニアユースでプレー。16年、十文字高校に入学し、1年生ながらレギュラーの座を掴み、全日本高校女子選手権優勝を経験した。ポジションはDF。身長163cm。

――自分を変えるというよりは自分らしさを前面に出していくと。

井上: はい。あまりガラッと変わってしまうと、みんなも困惑すると思うんです。そこは自分の良さや強みを出していけば、チームの中でも存在感を出していけると考えています。

 

――今年度新たに取り組んでいることは?

井上: チーム力は日本一を目指す上で一番必要だと思っています。今年のチームは他校と比べて部員数がとても多い。今はチームを組織化して、部員それぞれに役職を設けて全体として連携を取れるようにしています。

 

――ここまでキャプテンを務めてきてどうですか?

井上: すごく楽しいです。でも9割ぐらいは苦しい。これまで苦しい思いをしてきた歴代の先輩方がいて、私がキャプテンとして立てている。その感謝の思いを忘れず、しっかり任務を果たそうと思っています

 

――チームとしての目標は?

井上: まずは8月のインターハイ(全国高校総合体育大会)を絶対に獲りたいです。

 

 人として成長できる場所

 

 井上が理想のキャプテンに挙げるのが2学年上の村上真帆(現・早稲田大学2年)である。全国制覇時の主将で、決勝ではチームを優勝に導くゴールを決めた。井上にとっては地元が近いこともあり、良き相談相手だ。石山監督が語る「情熱一本鎗でやっていた時期」と今との違いを経験している。

 

――高校3年間で一番印象に残っていることは?

村上真帆: やはり全国優勝ですね。

 

(写真:現在は元FC岐阜の野田明弘<左>が高校のコーチを務める)

――石山監督によるとスタッフ陣の分業制がスタートしたのが、全国優勝した頃だと伺いました。

村上: 私が高校1、2年の時は石山先生1人、多くてもコーチが1人加わるくらいでした。高校3年になってスタッフの方がどんどん増えてきて、GKコーチもいましたし、秋には元ジュビロ磐田の松森亮さんもコーチとして加わりました。松森コーチからは戦術的、技術的なことを学びました。一方で、石山先生は選手たちの気持ちが入っていないと、喝を入れてくださる。チームをキュッと引き締めてもらいました。

 

――1、2年と3年とではガラッと変わった?

村上: そうですね。高校2年の時から十文字大学に新しく人工芝のグラウンドができて、環境は大きく変わりました。それまでは高校の校庭と大学にある天然芝のグラウンドを使っていたんです。高校の校庭では他の部活との兼ね合いもあり、サッカーコート1面分も使えませんでした。

 

村上真帆(むらかみ・まほ)プロフィール> 1998年6月15日、埼玉県生まれ。小学3年でサッカーを始める。中学時代は栃木SCレディースジュニアユースでプレー。2014年、十文字高校に入学。3年時にはキャプテンを務め、全日本高校女子選手権優勝に貢献した。同高卒業後は早稲田大学に進学し、1年時からレギュラーとして活躍している。ポジションはMF、FW。身長163cm。

――3年時にはキャプテンを任されました。その1年は苦労も多かった?

村上: みんなも私自身もキャプテンをやると思っていなかった。自分の性格をキャプテンらしいそれに近付けていくのかが大変でした。私はそれまでチームの輪の中にいた。でもキャプテンになったら、その輪から半歩先、一歩先に出てチームを引っ張らなければいけません。輪の中にいるままのノリでキャプテンをやっていた時期がありました。その時は同学年の子たちが「もっと引っ張っていかなきゃダメだよ」と言ってくれたので気付けた。私は同学年の子たちに恵まれていたと思います。

 

――キャプテンとして掴んだ全国制覇の喜びもひとしおでしたか?

村上: たぶんキャプテンじゃなかったら、ただうれしいだけだったと思います。キャプテンをやることで、いろいろな方と接する機会が増え、どれだけ多くの人に支えてもらっていたかを実感できました。キャプテンに指名された時は“何で自分なの?”と思いました。でも卒業してみて、キャプテンを経験できて良かったなと感じています。サッカーだけでなく人としてすごく成長できた。とても感謝しています。

 

――振り返ってみて、十文字高はどんな場所でしたか?

村上: サッカーをやる以前に人として成長させてくれる場所です。挨拶や礼儀、当たり前のことを徹底して教えてくれた。当たり前のことを当たり前にやる。その土台にあるからこそ、サッカーのレベルアップに繋がったのかなと思います。今振り返ってみても、改めて人として大事なことを教えていただいたことがよく分かります。

 

 挑戦し続ける

 

 石山監督は変化を恐れない。井上は入学後すぐにボランチからセンターバック、村上は在学時ボランチからFWにコンバートされた。今年7月、取材に訪れた際には石山監督が、紅白戦で選手のポジションを積極的に動かしていた。本来FWの選手がサイドバックやセンターバックで起用されていた。「チームとしての新しい可能性を見たかった。もちろん同じかたちを続けて精度を高めていくやり方もあります。でも私は新たなイノベーションを試したかったんです」と石山監督。ポジションを動かすことで、選手たちの競争意識を刺激する狙いもある。

 

(写真:サッカーをやっていた時のポジションはFW。今も前線に立ち続けるパイオニア精神を忘れない)

 変わることを恐れず突き進む。石山監督は今後について、こう語る。

「高校ではインターハイ、高校選手権など勝ちたい思いはあります。クラブ全体で考えれば、クラブを発展させて、もっと人が集まってくるようなピラミッドをつくりたいです。中学、高校、大学、トップチームと色を合わせて、チームのユニホームを着ていなくても“十文字のサッカー”“十文字の選手だ”と、わかるようにもしたい。あとはグローバルに、新しいリーグをつくるなど海外に進出したいです」

 

 現在、十文字フットボールクラブはFC十文字VENTUS、十文字学園女子大学、十文字高校、十文字中学、FC十文字VENTUSジュニアユースの5チームからなる。井上は「学園型社会というかたちで、地域とも連携してかつトップチーム、大学のチームもある。高校卒業後の進路の選択肢のひとつになりますし、他の大学を出てから戻ってこられる環境もある。大変ありがたいです」と口にする。

 

 学園型地域総合スポーツクラブとして、挑戦し続ける十文字フットボールクラブ。「根底にはチャレンジしたい、パイオニアになりたい。これが一番面白い。まだまだやりたいことはいくらでもある」。そう言って笑う先駆者・石山監督。その情熱の炎は50歳を超えた今も、衰え知らずだ。

 

 現在、BS11では「ザ・チーム」(毎週金曜22時〜22時30分)を放送中。<強いチームには勝利の方程式がある>をテーマに、スポーツの名門、強豪などに密着。それぞれのチームが持つ勝利への方程式を解き明かす。指導方法、練習方法、チーム独自のルール……。そのメソッドとは――。7月13日(金)の放送回では十文字高校女子サッカー部を特集します。是非ご視聴ください。